さいきのその日暮らしラジオ
一人で50社、毎日2件3件さばいてた頃の話
の放送
10年ぶりに会社に戻ったときの話を、今回はゆっくりします。
もともと僕は、マーケティングとかを自分でやって独立していて、それがうまくいかなくなって、年齢も年齢になってきて、それで再就職という形で会社に戻りました。なんとか転職できて入った会社が、建設業に向けてウェブのサービスをやっている会社で、僕の職種はカスタマーサクセスというものでした。
カスタマーサクセスって、言葉だけ聞くとかっこいいじゃないですか。お客さんを成功させる係、みたいな。でも中身を言ってしまうと、お客さんの面倒見がかりです。お客さんがめんどくさいと思っていることを、代わりにやってあげる仕事。
僕がいた会社のツールは月額10万円以上しました。高いですから、使わなかったらお客さんは「お金の無駄だ」と思って解約してしまう。契約上は1年は最低でも契約してくださいね、1年経って何も言われなければ自動更新しますよ、という携帯電話みたいな仕組みにはなっていたんですけど、それでもお客さん自身が使ってくれないことには成果は何も出ません。
で、そのツールというのが、正直に言うと、めんどくさいんですよ。使うのが。お客さんからしたらもちろんそうなんですけど、僕らも「これ使うのめんどくさいな」と思っているようなツールなんです。エクセルの数字をアップロードしたら、この工事はどれくらいの見積もりが正確で、利益率が何パーセントで、みたいなのがバーッと出てくる。建設業の人たちはそういうのをあんまりわからないまま日々仕事をしているので、見てわかるようになりますよ、という話なんですけど、そもそも日々忙しい人が新しいツールを触るって、それだけでもう一仕事なんですよね。
僕はその担当を、一人で50社持っていました。
1ヶ月は30日しかなくて、月8日ぐらい休みだから出勤は21日とか22日。50社を担当するということは、1日2件とか3件をさばいていかないといけない。毎日のように打ち合わせをして、来月の資料も作って、来月が契約更新月だなとなったらその準備もして、もちろん成果も出し続けないといけない。「うち採用したいんですけど人が足りないので助けてください」と言われたら採用支援もやる。「ホームページからもっと問い合わせが入るようにしたい」と言われたら集客もやる。ウェブのことに関しては、本当に網羅的に全部やらないといけませんでした。
しかもこれを、新卒の子がOJTで、現場でいきなりバーンとやらされて、覚えるみたいな感じでやるんです。要は素人がやるわけですよ。僕はマーケティングにちょっと詳しかったから、ある程度できた部分はあったかなと思うんですけど、それでもめちゃくちゃ大変でした。
そのうえで、目標というのがありました。月10万円のプランだから、50社持ったら一人あたり500万円の売上を上げていることになるよね、と。プラスで、お客さんの仕事を手伝って受注が発生したら手数料をもらいましょう、1000万円の工事が決まったらいくらか手数料をもらいましょう、その手数料でも500万稼ぎましょう、と。合わせて一人あたり月1000万円売り上げましょう、みたいな目標が勝手に課されていたんですね。
誰も到達したことはないんですよ。できない。机上の空論です。
会社側が「これぐらいの売上を上げてほしい」と勝手に決めて、社員に向けて言ってきていた。無理なんだよ、と思いながらやっていました。
ただこれ、前の僕の会社が特別ひどかったという話ではないと思っています。SaaSの会社、カスタマーサクセスの仕事というのは、結局どこもそうです。契約を更新してもらわないといけないから、結局は営業なんですよね。お客さんにちゃんと接触して、接して、成果も上げて、信用された上で、契約を更新し続けてもらう。そういう仕事です。
この時期のことを「成長」という言葉では言いたくないんです。その言葉、使いたくない。でも、試練にはなったというか、修行にはなったというか。やっぱりいろいろできる幅が増えたな、という感じはあります。
それで、今です。
会社を辞めて、独立して、同じようなことを一人でやっています。運良く問い合わせがあって、お客さんが契約してくれる形になっている。そして、前の会社で手作業でやっていためんどくさい仕事の多くが、今は手元で処理できるようになりました。
ただ、ここで僕が一番言いたいのはそこじゃないんです。
「建設業に向けてカスタマーサクセスをやる」「建設業の採用を支援する」って、一回そういう仕事をしたことがないと、発想にもならないんですよ。やり方も、わからない。調べれば何でも教えてくれる時代ではあるんですけど、じゃあ「これから何をやればいいですか」と聞いて、「建設業に向けたカスタマーサクセスがいいですよ」なんて、絶対に返ってこない。そんな発想はないですから。検索して、リサーチして、誰でもできるようなレベルの低いことばっかり提案してくると思います。
僕は10年前から、そういう誰でもできる、参入障壁が低いやつに安易に飛びついてきた人間です。情報商材とか、情報商材のマーケティングとか。たまたまうまくいって、お金をいっぱい稼げた時もありました。でも、続かないんですよ。
それをずっと続けられる人って、もう本当に、難しいことを考えずにお金が大好きで、稼げれば稼げるほどいいと思える人だと思うんです。僕も最初は自分がそうなのかなと思っていたんですけど、違いました。社会に対して自分が何か役に立っている感触というのが、ずっと欲しいタイプだったんですよね。情報商材を売る、ショート動画を作る、記事を量産する。そこには、それがない。だから面白くない。
それに対して、建設業の会社の採用を手伝って、実際に人が入ってきたとするじゃないですか。そうすると、その新人の人とクライアントの人たちに新しく接点ができるわけですよ。仕事終わりにご飯に行くとか、飲みに行くとか、一緒の現場に行ってなんとかかんとかするとか。今までなかったストーリーが生まれてくる。僕がその現場にいることはないですけど、そのきっかけを作ることはできた。それが、本当に良かったなと思えるんです。
かといって、朝から晩までヘトヘトになるまで働いてそれをやりたいかというと、そこまでしてやりたいわけではない。だから、仕組みにできるところは仕組みにして、やっています。プログラミングのスキルも経験も一切ないのに、今はツールをバンバン作れてしまう。平面図を投げたら3Dにして、ソファーを置くとか冷蔵庫を置くとかができるツールも一瞬で作りました。でもそれ自体はメインじゃなくて、ウェブ関連で建設業を支援するという中の、一つのサービスでしかないです。
順番としては、「よし稼ごう、建設業はウェブが弱そうだからそっちに飛び込んだら稼げそうだ」という目線で入ったんじゃないんですよね。困っているという相談を受けて、じゃあこういうことができますよと提案したら、できるようになってきた。そのスタートで良かったなと思っています。
だから僕は、あのイヤイヤやっていた50社の日々を、なかったことにはできないなと思うんです。楽しかったとは言いません。今戻れと言われたら嫌です。でも、あそこで「お客さんはここがめんどくさいんだな」「これを自分が引き受けるのもさらにめんどくさいな」と毎日感じていたことが、そのまま今の仕事の中身になっている。
もし今、あなたが何かイヤイヤやっている仕事があるなら、それを「これめっちゃ効率悪いやん」「なんでこれ俺がやらなあかんねん」と思いながらでいいので、ピックアップしておくといいかもしれません。まずは自分の仕事を楽にするために使ってみる。そのうちに「こういうのできたよ」と人に言いたくなってきて、「それめっちゃいいじゃないですか、使わせてください」と言われる。そこが始まりになったりするものだと思います。
現場からは以上です。